IBM iを知らない人へ、 IBM iを説明する時に役立つコンピュータ知識⑤

IBM iを知らない人へ、 IBM iを説明する時に役立つコンピュータ知識⑤

その他2024.04.24

IBMiを説明するときに役立つコンピュータ知識


前回までのコラムでは、IBM i を説明するために、コンピュータの種別の話から始まり、メインフレームやオフコンの歴史、そしてAS/400が登場するに至った経緯をお話してきました。
長きにわたった本コラムの最終回は、いよいよ『IBM i (AS/400)』についての説明や変遷等をまとめていきたいと思います。

人間とコンピュータが対話する手段

CUIとGUI

人間とコンピュータが対話する手段

ようやくIBM i の最初の姿である『AS/400』が登場しましたが、IBM i を知らない人へIBM i を説明する際には避けて通れない『CUI』と呼ばれるユーザーインターフェース(UI)についてご説明します。

インターフェースは直訳すると接触面となりますが、コンピュータ用語でUIという場合、ユーザーがコンピュータを操作する際の方式のことを意味します。要はコンピュータが人間にどのような形で情報を提供するか、また人間がコンピュータにどのような形で作業の指示を出すか、というデザインやルールの取り決めです。

AS/400では、『CUI』(Character User Interface)と呼ばれるUIを採用しています。古くから使用されているUIで、コンピュータからの情報は『文字』のみで提供され、操作はキーボードを介して『文字』を入力することで行います。本コラムでここまで説明してきたほとんどのメインフレームやオフコンも同様です。
最近の一般的なPCシステム(WindowsやmacOS等)で採用される、アイコンやボタンをマウス等のポインティングデバイスで操作する、『GUI』(Graphical User Interface)とは操作感が大きく異なります。

習熟してしまえばキーボードだけで操作が完結したり、定型の作業を効率的に行えたりとかなり便利な方式なのですが、操作には一定の知識が必要ですので、操作初心者には少し敷居が高い方式と言えます。
システムに馴染みのない人にとって、AS/400が『難しそう』『古臭い』と感じられてしまうのはこの辺りにも原因があるのかもしれません。

ちなみに、UIから少し離れる話ですが、AS/400をはじめほぼ全てのメインフレームやオフコンでは、どれだけ性能が高くとも、それ単体ではゲームや映像・音楽などを楽しめません。一般的な方々が高性能の尺度にしやすい『娯楽性』については絶望的ですので、PCと絡めてAS/400を語る際には一定の覚悟が必要になります。

サーキットを走るF1車にカーナビやオーディオ機能が必要ないのと同じく、メインフレームやオフコンに娯楽性は重要ではありません。AS/400にはPCでは得られない事務性能や並列処理の魅力がありますので、そちらを熱く語ってください。

AS/400との対話に必須の装置

ダム端末とエミュレータソフト

AS/400との対話に必須の装置

CUIでAS/400を操作する際に必要となる装置が『コンソール』(制御卓)です。

AS/400発表当初のコンソールは、1977年にSystem/34で導入された『IBM 5025』の流れをくむ専用端末でした。
専用端末はモニターとキーボードのみで構成されていて、同軸ケーブル(Twinaxポートと呼ばれる独自の接続規格)でAS/400と直接繋ぐことで、AS/400と対話するためのテキスト画面をユーザーに提供します。

この一見するとPCにも見える専用端末は『ダム端末』(damb=頭の悪い)と呼ばれます。

ダム端末は形こそPCに酷似しているものの、一般的なPCとしての機能は無く、当初は80文字12行(920文字)、もしくは80文字24行(1920文字)のモノクロ文字の表示と入力しかできない端末でしたから確かに高機能とはいえません。
しかし、導入コストはPCより低く済みますし、考えようによっては現在のリモートデスクトップやシンクライアントと似たような発想の利用形態を、当時の貧弱なハードウェア資源、ネットワーク環境下で実現するには、かえって具合が良かったのかもしれません。

その後、1990年代半ばを過ぎてオフィスにPCが浸透するにつれ、それ単体ではPCの機能をもたないダム端末はその座をエミュレータソフトに取って代わられます。

AS/400には登場時から『PCサポート/400』と呼ばれるユーティリティソフトウェアがありました。
PCとAS/400間のデータ転送に始まり、AS/400のコマンド投入やディスクの一部へのアクセスをPCから可能にするPCサポート/400でしたが、1994年、IBM 5250をエミュレーションする機能を加えて『IBM Client Access』として生まれ変わります。

これがAS/400における『5250エミュレータ』の始まりです。
専用端末が無くても、PCに機能をエミュレーションさせることでAS/400との対話を可能にする5250エミュレータはオフィスの卓上をスッキリさせます。また、それに伴ってPCに準拠した接続方法も一般的になり、専用の接続ポートや同軸ケーブルは消えて通常のNICとLANケーブルを使用するようになり、プロトコルもSNA接続からTCP/IP接続へとシフトしました。
変遷期には何かと注意を払う必要があった記憶もありますが、2000年頃にはダム端末を見かける機会はかなり少なくなっていたと思います。

その後、『IBM Client Access』は、『IBM Client Access Windows Express版』(1999年)、『IBM iSeries Access for Windows』(2000年頃)、『IBM System i Access for Windows』(2006年頃)、『IBM i Access for Windows』(2008年頃)とブランド名変更等と共に変遷してきます。
一般に『CA(しーえー)』と呼ばれるこの一連のシリーズは、2015年に登場した『IBM i Access Client Solutions』(通称『ACS(えーしーえす)』)に役目をバトンタッチして2019年にサポートを終えます。

また、CAとは別に、5250エミュレーションとデータ転送程度の機能に限定した、一般には『PCOMM(ぴーこむ)』と呼ばれる『Personal Communications』というソフトウェアがあります。CAの5250エミュレータ・ソフトウェアも同じ名前なため混同しやすいですが、バージョン表記や一部機能が異なるため、別のソフトウェアとして扱われ、CAのサポートが終了した2024年現在でも最新版が提供されています。

ちなみに、5250エミュレータを用いてプログラムの実行を指示する際に、かつてはキーボード右側の『Ctrl』キーを利用する設定が主流でした。現在でもノートPCの新規購入時に右Ctrlキーの有無や配置、サイズを無意識で気にしてしまうような熟練のIBM i ユーザー諸兄も、初めて触れた時には不思議に思った方も多いと思いますが、これはダム端末の実行キーがその位置にあった名残です。

他のシステムと比べてここが凄い!

AS/400の特徴

他のシステムと比べてここが凄い!

利用者目線でAS/400を眺めてみると、以下のような特徴が挙げられます。

  • 高いセキュリティ

    オブジェクト指向という言葉が一般的に使われる以前から、AS/400はオブジェクト指向で設計されています。
    同じ数字を扱うデータであっても、それが演算に使用される『数値』なのか、顧客コードのような『数字』であるかを明確に区別して、その属性を項目単位で保持していますので、間違って顧客コードに四則演算を行うようなプログラムは組めません。
    また、ファイルの属性情報はファイルの生成時に決められ、勝手に変更することは出来ませんので、例えば実行ファイルの拡張子を『txt』にして、テキストファイルに成りすますようなことはできません。
    その他にも様々なセキュリティの仕組みが組み込まれており、総合的に非常に高い堅牢性を実現しています。

  • 不慮のシステムダウンが極めて少ない

    AS/400はハードウェアからOS、データベースに至るまで、アプリケーションを除く全てをIBM一社で出荷することを前提に設計されています。そのため、非常にシステムが安定していて、販売開始から長らく他のサーバーシステムと比較してダウンタイムが極めて短いことで知られています。
    安定性の高いシステムがオールインワンで入手できるということは、サーバー管理の手間が低く見積もれますし、問題が生じた際の問い合わせもシンプルです。結果として管理コストが低く抑えられるのも利点となります。

  • 過去のプログラム資産の継承性が非常に高い

    AS/400(IBM i)の運用や開発をしていると、たまに恐ろしく古いプログラムに出会うことがあります。
    最近でこそ見かけなくなってきましたが、以前はSystem/36やSystem/38のプログラムを見かける機会がそれなりにありました。
    30年以上前のプログラムが最新のサーバー上で、手を加えることなく、あるいは少しの手間(再コンパイル等)でそのまま動くというのは驚異的ですらあります。

  • パフォーマンスが高い

    通常であれば、ファイルのオープン/クローズが頻発してパフォーマンスが低下しやすいトランザクション処理において、メモリとストレージを単一のアドレス空間で管理するAS/400は、余分なファイル操作が少なく済むため、極めて高いパフォーマンスを実現します。また、並行して流れる複数の処理(マルチプロセス)の切り替え時に必要な命令数を少なくしたため、プロセスの切り替えが速く、多数のユーザーを同時にサポートする際の処理も迅速です。

30年経っても色褪せない先見性

ユーザーが享受できる様々なメリットの背景には、様々な技術的後支えがあります。
ここでは、AS/400の技術的先見性を語る際に絶対に出てくる代表的な2つの技術について紹介します。

AS/400で採用されている代表的な技術①

30年経っても色褪せない先見性(TIMI)

『TIMI』(Technology Independent Machine Interface)

IBMロチェスターの開発陣は、企業における基幹業務は改善を重ねながら長期的に運用されるものであると想定しました。
この長期的というのは、サーバーマシンの世代が変わって全く新しいテクノロジーが出現することすらも視野に入れる程の長期です。サーバーは時を経れば更新の必要がありますが、その度にアプリケーションに手を加える必要があるのは避けたいですし、だからと言って最新のテクノロジーまで避ける訳にもいきません。

そこで、本来ならハードウェアの違いを覆い隠すだけのマイクロコード群に、従来のミドルウェア(データベースマネージャー等)の機能までを含めてしまい、ハードウェアがいくら進化してもOSやアプリケーションからはそれまでと同様に扱えるようにしました。

それが、技術から独立した境界面......すなわち『TIMI』(Technology Independent Machine Interface)です。
これはAS/400でSystem/38とSystem/36の互換性を持たせるためにも有効でした。

AS/400で採用されている代表的な技術②

30年経っても色褪せない先見性(SLS)

『SLS』(Single Level Store)
コンピュータが使っている記憶装置は主記憶装置と補助記憶装置に分類できます。

主記憶装置は、主にRAM(メモリ)のことを指し、非常に高速ではあるものの一般的には小さな容量に留まる記憶装置です。
補助記憶装置は、HDDやSSDあるいは光学メディアなどのことを指し、大きな容量を確保しやすい反面、比較的低速な記憶装置です。

一般的なコンピュータでは、アプリケーションはデータがそのどちらにあるかを明確に区別して動作します。
しかし、AS/400(と、その先代にあたるSystem/38)では、仮想的にそれらの記憶装置をひとつの巨大なアドレス空間で管理するため、アプリケーションは記憶装置の区別を必要としなくなりました。

その仮想記憶のメモリ管理技術が『SLS』(Single Level Store:単一レベル記憶)です。

従来の仕組みでは、アプリケーションがデータを利用する際、目的のデータが補助記憶装置上にあった場合、一度主記憶装置にデータを置き直した後に処理する必要があったため、ファイルのオープンやクローズが多数必要となり、パフォーマンスが低下していました。
SLSの場合、目的のデータはその場で処理できるため、特に多くのトランザクション処理を行う際に際立って効率がよくなりました。

ちなみに、このSLSは前述のTIMIに組み込まれているため、アプリケーションどころかOS自体が主記憶装置と補助記憶装置を区別できません。

IBM AS/400の変遷



1988年の登場から35年、AS/400は名前を変えながら数々の進化を歩んできました。

まず、登場からしばらくの間、AS/400は目まぐるしく進化していきます。
数々の機能を追加しながら、1995年にはついに48ビットCISCチップから64ビットRISCチップへ移行しました。
これは通常であればアプリケーションの互換性が失われるであろう程の大変革ですが、先述のTIMIのおかげで移行は概ね速やかに完了した印象です。

1994年以降のモデルには『AS/400 Advanced Series』の名前が使用され、1997年にはe-businessへの関心の高まりから『AS/400e』へとブランド変更されました。

そして、2000年にIBMは自社の全サーバーブランドの名称を『eServer 〇Series』へと統一的に変更します。
それに伴って『AS/400(AS/400e)』は『eServer iSeries』へと変わります。
つまり、ここで『AS/400(AS/400e)』の名前は消滅したことになります。(OSの名前は『OS/400』のまま)
その後、2004年にPOWER5プロセッサの搭載を機に製品名が『iSeries』から『eServer i5』(さらに2006年に『System i5』)に変更され、OSの名も『OS/400』から『i5/OS』へと変更されます。

あくまでも私見ですが、名称が消滅して20年以上も経過した現在でも『AS/400』の呼称がユーザー間で完全には排しきれていない原因は、この頻繁な名称変更にあるのではないかと勘繰ります。

ちなみに、2000年はブランド名の変更だけではなく、UNIXアプリケーションをiSeries上に容易に移植できる『PASE』と呼ばれるAIX実行環境が搭載されるようになり、さらに翌年の2001年にはpSeries(旧RS/6000)と同じPOWER4プロセッサが採用されることでハードウェアの共通化が着々と進みます。

iSeriesとpSeriesは本質的には同じハードウェアでありながら、OSだけが違う(iSeriesはOS/400、pSeriesはAIX)という状態が続きましたが、2008年には、ついに両プラットフォームを統合した『Power Systems』が発表されます。
これにより、独立したハードウェアとしてのSystem i は姿を消しました。

その際にSystem i 用OSの名称は『i5/OS』から『IBM i』へ変更され今日に至ります。
つまり、今日AS/400の歴史を継承しているものは『IBM i』というハードウェアではなく、『IBM i』という名前のOSということになります。

その後も、PythonやNode.js等のオープン系の技術を積極的に取り込み、セキュリティ機能を強化し、他にも様々な機能を追加し、2021年には『Power Systems』も『Power』へと名称を変更しながら、今日に至るまで『IBM i』は進化し続けています。

まとめ

コンピュータは、データの操作と計算をより速く、より大量に、より安定して行う方向で進化してきました。その道中でセキュリティや新しい技術への対応など、それまでにはなかった新しい要件が次々と追加されて今日に至ります。
コンピュータが社会を変化させ、それによって生まれた新しいニーズがまたコンピュータの進化を促した形です。

スマートフォンの様に高機能な情報端末を個々人が所有して、インターネット経由で地球の裏側の人々と情報のやり取りを日常的に行える世界になるなんて、30年前に想像していた人はほとんどいなかったと思います。1960年代に『ダイナブック構想』を提唱して当時としては先進的過ぎとも言えた、アラン・ケイですら、まだほんのちょっと想像力が追い付いていなかったかもしれません。

実装と要望がぐるぐると追いかけあって大きく変化するコンピュータの界隈において、最新技術の恩恵を享受しつつも、30年も前に作成した基幹業務システムを今なお利用できるというのが、どれほど稀有で、どれほど有益なものであるかはご想像いただけると思います。
AS/400の開発チームは、中小企業が入手可能なコストの範囲で、未来に対応できるコンピュータを世に送り出しました。
そして、30年以上経った現在も、IBM i と名前を変えながら企業にとって非常に有益なコンピュータであり続けています。
末恐ろしいことに、1980年代のIBMロチェスターのスタッフが想定していた『未来』は、現在よりもまだまだ先にある様子です。

本コラムは、IBM i を知らない人に、IBM i とはどんなものであるかを説明する際に、もしかすると役に立つかもしれない情報を整理してきました。正直なところ、これまでの全ての情報を羅列したところで、知らない人には何も響かない公算が高いと思います。
とはいえ、伝える側が知識をより深く理解していると、伝達する際には説得力が増すと信じています。

ですので、IBM i とはどんなものであるかを説明する際には、本コラムを少し思い出しつつ、
『パソコンよりちょっと大きくて、中小企業にとって『最高に丁度いい』コンピュータだよ』
と万感の想いを込めて伝えてみてください。

本コラムで整理した歴史、技術やその他の雑多な情報が、少しでも説得力の後押しになれたなら幸いです。