IBM iを知らない人へ、 IBM iを説明する時に役立つコンピュータ知識

IBM iを知らない人へ、 IBM iを説明する時に役立つコンピュータ知識

その他2023.01.25



IBM iはIBM Power Systems、及びIBM PureSystemsに搭載されているオペレーティングシステムです。
1988年に登場した当初はIBM OS/400と呼ばれ、同時に発表されたIBM AS/400というハードウェア上で稼働する唯一の統合オペレーティング環境でした。

名前を変え、進化しながら利用され続けて30年。最近ではレガシーシステムと呼ばれることも多いですが、
IBM iを日常的に利用している私たちは、IBM iが基幹業務アプリケーションを支えるシステムとして非常に『具合が良い』ことを知っています。

レガシーなシステムだからいずれは淘汰される……と、悲観する人も多いですが、そんな人たちでも性能や信頼性、あるいは資産の継承性を考えた際に、まだ完全に決別するのは難しいと判断してしまうほどには優秀なシステムです。
そもそも、本当に淘汰されるべき古臭いシステムであるかと言えば、新しい技術トレンドにも対応していますし、
リスクを負ってまで性急に別のシステムへ置換することの方が危ういと感じる向きもあります。

挙げればたくさんの利点を持つそんなIBM iですが、残念なことに一般的な知名度は(おそらく)さほど高くありません。
当然のことながら、知らない人は興味を向けることもありませんので、IBM iの有用性は、まずはIBM iを知ってもらうことから始まります。

本コラムは、IBM iを知らない人に、IBM iとはどんなものであるかを説明する際に、もしかすると役に立つかもしれない情報を整理するためにまとめました。

珈琲でも飲みながら、肩の力を抜いて読み流して頂けると幸いです。

IBM i って何?

IBM iを知らない家族や知人、あるいは新入社員から『IBM i』についての説明を求められると、私はいつも回答に詰まります。

IBM iに携わる人間の多くはIBM iは『オフコン』(オフィスコンピュータ)だと知っています。少なくとも遠い昔に会社の先輩からその様に教わった経験があると思います。勿論オフコンがどんなものであるかを知らなくてもIBM iは使えますが、大抵はその利用を通じてオフコンを体感的に理解したのではないでしょうか。
そして、その感覚に従うと、オフコンは『パソコン』より上位ではあるものの、『メインフレーム』や『スパコン』よりは下位に位置するコンピュータである様に思えます。

ですが、企業向けのコンピュータと無縁な、いわゆる一般の人はパソコン以上のコンピュータに馴染みがありません。
単語だけであれば『サーバー』や『ホストコンピュータ』などを知っていても、本質的には古いSF映画に出てくる『マザーコンピュータ』の様なものをイメージして、よく分からないけど『大きなコンピュータ』なんだろうな……といった解像度の低い理解に留まってしまいがちです。
そんな方々にパソコンとメインフレームの中間に位置するオフコンを説明するのは割と困難です。
IBM iはオフコンですと紋切型の説明したとしても、素直に理解される可能性は非常に低く、仮に丁寧な説明をできたところで最終的には『高級なパソコン』程度の不本意な認識に落ち着いて釈然としない気分になるのです。

とはいえ、改めて考えてみるとIBM iを体感的に理解している人であっても、パソコンより上位でメインフレームより下位という認識が、実際のところは何を持って区別しているのか明確な基準を説明できる人は少ないかも知れません。

コンピュータの分類は非常に曖昧で複雑です。
オフコンのことを考える前に、まずは大まかなコンピュータの分類について情報を整理しましょう。

コンピュータの分類

コンピュータの範囲を、原義通りの『計算する者』と設定するのは流石にナンセンスですが、現在一般的である『電子計算機』に限定したとしても、その分類名には実に様々なものがあります。
利用形態や使用用途あるいは単純なサイズといった色々な分類基準が入り混じっているため、美しい対称性のある分類とは縁遠く、身近に使う呼称のみが優先的に利用されているのが現状の様に思えます。

<コンピュータの分類の例>

  • スーパーコンピューター(スパコン)
  • メインフレーム(汎用機)
  • ホストコンピュータ
  • サーバーコンピュータ クライアントコンピュータ
  • ワークステーション
  • オフィスコンピュータ(オフコン)
  • パーソナルコンピュータ(パソコン)

    上記以外にも、スマートフォンやゲーム機、あるいは組み込みシステムなどもコンピュータとして分類できますが、本コラムの対象からは少し離れるため割愛します。

  • スペックにより分類

    コンピュータの分類を考える際に、一番最初に目につくのは処理能力やサイズ、あるいはその価格といったスペックによる分類だと思います。処理能力が高く、サイズも大きく、高価なコンピュータは分かりやすく上位的存在ですし、その逆は下位的存在であることが自明です。

    ですが、技術は常に進化しているため、時間の経過と共にコンピュータの処理能力は大きくなる一方で、処理能力当たりの物理的なサイズや価格は小さくなります。乱暴に言うならばコンピュータは『より速く、より小さく、より安く』なります。
    ここに、スペックが高ければ『メインフレーム』で、低ければ『オフコン(ミニコン)』と簡単に言い切ることが難しくなる要素があります。

    例えば処理能力に着目するなら、コンピュータの有名な性能指標のひとつに『FLOPS』(フロップス、Floating-point Operations Per Second)というものがあります。これは1秒間に浮動小数点演算が何回できるかを表す単位です。

    1997年5月11日にチェスの世界チャンピオンとの対局で総合勝利したIBM製のチェス専用スーパーコンピュータ『Deep Blue』の処理速度は11.38 GFLOPSと言われています。つまり、DeepBlueは1秒間に110億回以上の浮動小数点演算が可能な処理能力を持っていたことになります。開発開始から8年が経過してスパコンとしては既に最速とは言えない処理速度でしたが、その翌年にDeep Blueの5倍程度の処理速度を持つコンピュータをIBMが100万ドル(当時の為替レートで約1.2億円)で一般販売していることから、十分に高コストなコンピュータであったことは間違いありません。

    翻って、2022年現在の一般的なパソコンの処理能力を見てみると、例えば多くのパソコンで採用されているIntel社製のCPUである第12世代 Core i7 チップ『12700K』は691.2 GFLOPSの処理能力を持つとされており、単純計算でDeepBlueの60倍以上です。
    DeepBlueにとってさらに過酷な現実を突きつけるとするならば、今から10年以上前の2011年に販売されたApple社のiPhone 4Sに搭載されているApple A5チップの処理能力が14.4 GFLOPSと言われていますので、DeepBlueはその歴史的な偉業の14年後にはスマートフォンにも浮動小数点演算性能を追い抜かれた形になります。

    当然ながら価格やサイズも同様です。
    冷蔵庫よりも大きくて何億円以上もするようなスーパーコンピュータが、20年後にはポケットとポケットマネーで収まるスマートフォンに処理速度で負けてしまうのですからどうしようもありません。

    明確な性能情報はありませんが、IBMメインフレームの祖といえる名機『IBM 701』(1952年)がどれほど高性能な真空管を搭載していたとしても、IBMオフコンの祖である『IBM System /3』(1969年)に対して性能的な優位があるとは思えません。
    また、いくらミニコン(オフコン)とはいえ、その最大構成時はそれなりの空間を占拠します。場合によっては最小構成のメインフレームよりも大きくなることもあるかも知れません。

    このように、ハードウェアのスペックだけでコンピュータの分類を行おうとすると、時代の移り変わりによって凄まじい下剋上が起こってしまいますので、あくまでも世に出た瞬間の相対的なスペックによって語られるものであることに注意が必要です。

    役割や用途による分類

    結局のところ、コンピュータの分類は単純なスペックに依らず、役割や用途によって行われる方が健全なのかも知れませんが、これも時代が進むに連れて境界線が曖昧になることも多く、状況次第では混迷を極めます。
    また、『スーパーコンピュータ』や『メインフレーム』の小型版を『ミニコンピュータ』と呼称したり、メインフレームメーカーが自社のダウンサイジング製品を『スモールビジネスコンピュータ』や『ミッドレンジコンピュータ』と呼称したりもしますので、処理能力やサイズや価格での分類を完全に消し去ることも困難です。

    用途で分類

  • スーパーコンピュータ
  •   科学技術計算用途で大規模・高速な計算能力に特化したコンピュータ

  • メインフレーム
  •   企業などの組織で共有し、何らかの業務処理を行わせるための中核をなす大型コンピュータ

  • オフィスコンピュータ
  •   中小企業等での事務処理を行うために設計された比較的小型のコンピュータ(日本以外ではミニコンピュータ)

  • ワークステーション
  •   組版、科学技術計算、CAD、グラフィックデザイン、事務処理などに特化した業務用の高性能なコンピュータ

  • パーソナルコンピュータ
  •   個人によって占有されて使用されるコンピュータ

    上記であれば、『メインフレーム』と『オフィスコンピュータ』の現実的な境界線はサイズや価格であることが多く、『パーソナルコンピュータ』と『ワークステーション』にしても、パーソナルコンピュータの能力が向上したことで両者の差が不明確になりつつあります。

    役割で分類

  • ホストコンピュータ
  •   コンピューターネットワークを通じて、入出力端末や他のコンピューターの要求に応じて、
      さまざまな処理や演算などを集中的に担うコンピュータ

  • サーバーコンピュータ
  •   コンピューターネットワークを通じて、他のクライアントコンピュータの要求に応じて、
      サービス(情報や処理結果を返す)を提供するコンピュータ

  • クライアントコンピュータ
  •   コンピューターネットワークを通じて、サーバーに対してサービスの依頼を行いその提供を受けるコンピュータ

    『ホストコンピュータ』と『サーバーコンピュータ』は似て非なるものです。大雑把に言えば、ユーザーからの要求に対して処理そのものを提供するのが『ホストコンピュータ』で、処理結果だけを返すものが『サーバーコンピュータ』です。

    IBM iの場合、PC5250エミュレータを介した対話式の利用法では『ホストコンピュータ』としての役割を期待していますが、HTTPサーバーを駆使したWebサイトの利用などは『サーバーコンピュータ』の領域になります。

    オフコンの立ち位置

    ここまでコンピュータには色々な分類があることを再確認しましたが、話を元に戻して、IBM iを知らない人に説明するために避けては通れない『オフコン』というものについて、もう少し掘り下げます。

    『オフコン』は『オフィスコンピュータ』の略で、主に中小企業等での事務処理を行うために設計された、比較的小型のコンピュータであるとされています。この『比較的小型』の比較先は一般的にはメインフレームであり、小型という単語は単純にサイズだけを指すのではなく性能や価格も含んでいるように思えます。
    ちなみに、『オフィスコンピュータ』はほぼ日本独自の呼称らしく、海外では『ミニコンピュータ』や『ミッドレンジコンピュータ』と呼ばれるのが一般的だそうです。

    まとめ

    今回のコラムではコンピュータの分類と、その中における『オフコン』の立ち位置を確認しました。
    次回は、オフコンを語る際に避けては通れない『メインフレーム』についての情報を整理してみたいと思います。