Power VSでバックアップ

Power VSでバックアップ

IBM i2024.11.29

はじめに

現在のシステム環境において、クラウドはストレージとしても実行環境としても真っ先に検討に上がるほどその地位を高めています。

オンプレミス環境で稼働しているシステムの更改を計画する際に、どの企業もAmazon Web Services(以下 AWS)やMicrosoft Azure(以下 Azure)などのクラウド環境を優先的に模索するのではないでしょうか。
様々な企業の提供するクラウド環境が何年も前から隆盛を見せている傍ら、IBM i(IBM Power)では一般にイメージするAWSやAzureのようなクラウド環境が長らく存在しておらず、日本国内のIBM CloudのラインナップにPower Virtual Server(以下Power VS)が加わったのは2020年になってからでした。

登場当初は開発環境としての利用がメインだったPower VSですが、最近は本番環境として利用されるシーンも増えてきています。

 

本番環境としてのPower VS

本番環境として利用が増えてきたPower VSですが、その理由はいくつか考えられます。

まず、実績が増えてきたことにより、導入に対しての抵抗感が低くなったように思えます。これは特に日本特有の文化かもしれませんが、新しいものに対しては興味や関心より不安が勝ってしまい、なかなか本番環境として採用に踏み切れない傾向があります。それが時間の経過とともに他社での導入事例や実績が増え、採用しやすい状況になってきたのかもしれません。

2つ目として、HW/SWの保守サービスや販売の終了などに伴い、早急にシステム更改をしなければならないものの、あと数年でオープンシステムへのマイグレーションが決まっている場合などです。
長期のコストで見た場合、まだまだオンプレで保持するほうが安価ではありますが、短期で見た場合には、圧倒的にクラウド環境はコストメリットがあります。
このような場合には、PowerVSは非常に魅力的な選択肢として挙げられます。

このように様々な理由で、本番環境として利用が増えているPowerVSですが、移行において何を考慮しないといけないのでしょうか。

多くの場合、オンプレ環境であろうが、クラウド環境であろうがシステムの挙動は変わりません。
もちろん、クラウド環境にする場合、ネットワークセグメントの変更がありますので、いくつかのアプリケーションの変更は必要かもしれません。
そんな中オンプレ・クラウド環境の差異として一番に考えないといけないのがバックアップの運用です。

オンプレとクラウドのバックアップの違い

オンプレ環境でシステムを運用している場合、多くの場合LTOテープを使用したバックアップを行っていると思います。
また、中にはDataDomainのような仮想テープライブラリを利用している方もいらっしゃるかも知れません。

ですが、残念ながらPower VSではいずれのバックアップも使用することができないため、バックアップの運用を変更する必要があります。

Power VS環境で提供されるバックアップ手段は2024年12月現在以下2つとなっています。
※サードベンダー製のバックアップツールも選択しとして挙げられますが、今回のコラムからは割愛します。

  1. FalconStor VTL
  2. BRMS × IBM Cloud Storage solutions for i

このうち、1. FalconStor VTLは、利用するにあたってLinux区画の構築が不可欠で、IBM iユーザーには敷居が高いため、本コラムでは2. のIBM Cloud Storage Solutions for iに絞って紹介します。

BRMS × IBM Cloud Storage solutions for i

BRMSは、IBM® Backup, Recovery, and Media Servicesとして古くからライセンスプログラムとして提供されてきており、PowerVS環境では標準で使用することができます。

IBM Cloud Storage solutions for i(以下ICC)は、バックアップデータに限らずファイルをクラウドに保管するためのライセンスプログラムです。
PowerVSにおいてはオプションライセンスとして提供されています。

BM CloudではオブジェクトストレージとしてIBM Cloud Object Storage(以下ICOS)が提供されていますので、BRMSを使用してバックアップを取得し、そのバックアップファイル(仮想テープボリューム)をICCを用いてICOSに転送することでバックアップの運用を実現します。

BRMS×ICCの構成方法

まず事前にIBM CloudコンソールでICOSのバケット(オブジェクトを格納するための専用の領域)を作成しておく必要があります。
ICOSバケットを作成すると、その資源URI、アクセスキー、秘密アクセスキーの情報が確認できますのでそれを控えておきます。

  1. バックアップを転送するICC定義を作成
    CRTS3RICCコマンドで、ICCの構成を作成します。

    ここで作成したバケット名、控えたURI、アクセスキーID、秘密アクセスキーを指定します。

  2. BRMSのバックアップ制御グループを作成
    ICC資源が定義されている状態でBRMSが初期化処理されると自動でバックアップ制御グループが作成されます。


    デフォルトで”QCLDBUSR01”という制御グループが存在しているかと思いますので、そちらをコピーして新しい定義を作成してください。
    ※コピー後の名前は”QCLDUxxx”とすることを推奨


    バックアップ制御グループの媒体ポリシー内で指定している移動ポリシーには、転送先のICOSバケットが定義されています。


    ※バックアップ制御グループ"QCLDBxxx"が存在しない場合、BRMSがICC資源を認識していません。
    以下コマンドでBRMSにICC資源を認識させることが可能です。

    INZBRM OPTION(*DATA)


  3. コピー作成したバックアップ制御グループ”QCLDUxxx”から、バックアップ対象のライブラリを指定
    バックアップ制御グループの一覧画面より対象の制御グループをopt2で修正できます。
    以下の設定の場合では、すべてのユーザーライブラリ/文書ファイル/IFSを保管する形となります。
    ※SEQ20の*ALLUSRですべてのユーザーライブラリ
    SEQ30の*ALLDLOですべての文書ファイル
    SEQ40の*LINKですべてのIFSを指定しています



    対象のライブラリが多い場合には、バックアップリストを作成して指定することが望ましいです。



構成は以上で完了です。
STRBKUBRMコマンドで作成したバックアップ制御グループを指定するだけでバックアップが取得され、自動でICOSバケットに転送されます。
仮想テープ装置も、ボリュームも作成する必要はありません。

さいごに

BRMSとICCを使用することで簡単にバックアップをICOSに転送することが可能となるサンプルを紹介しました。

今回はユーザーライブラリの保管のサンプルでしたが、システムバックアップのバックアップ制御グループも存在していますので、システムバックアップを取得することも可能です。

BRMSとICCを使用したバックアップは、ICOSの構成さえしてしまえば、あとは5250だけで構成が完結するため、従来からIBM iをご利用中の方にとっては非常に開始しやすいオプションです。

ただ、バックアップボリュームをネットワーク経由で転送するため、データが大きくなるに連れてどうしても転送時間がボトルネックになります。
転送時にデータ圧縮するオプションもありますが、その場合、システムのCPUリソースを大きく消費することに繋がりますので一長一短です。
そのためバックアップ対象が大きくなる大規模なシステムにはFalconStor VTLのほうが適しているかもしれません。

 

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