Power VSでリカバリー

Power VSでリカバリー

IBM i2024.12.06

はじめに

別コラムにて近年Power VSを本番環境として採用する企業が増えていることと、それに関連して、バックアップ運用を変更する必要があると紹介させて頂きました。

当たり前の話ですが、バックアップは取得して終わりではなく復元(リストア)とセットとなっています。
せっかく取得していたバックアップが、いざと言うときにシステム復旧やデータ復旧の役に立たないということが無いように、しっかりとリストアについても考慮・検討をする必要があります。

今回はPower VSにおいて、BRMS、IBM Cloud Storage solutions for i (以下ICC)を使用した環境でのシステムリストアを紹介させて頂きます。

従来のシステムリストア

オンプレミス環境でシステムリストアを実施したことはあるでしょうか?
災害・障害訓練の一環で実施した方もいらっしゃるかもしれませんが、念のため従来の場合の基本的な流れをおさらいさせて頂きます。

まず前提として、システムリストアを行うためには当然ながらシステムのフルバックアップが必要になります。
バックアップ運用をLTOテープ主体で行っている場合には、それ単体ではブートデバイスとして使用できないため、ブートメディア(I_BASE01)のDVDも必要です。

システムのIPLソースを"D"(IPL タイプ D は、プログラムのインストールや再ロードなど、特別な作業の際に指定します)にセットし、ブートメディアからマニュアルIPLを行い、DSTメニューより代替IPL装置としてテープ装置を指定します。テープからマイクロ・OSの導入を実施し、OSが起動した後に、GO RESTOREからシステム全体の復元を行います。

システム全体の復元後、日次バックアップなど、最新のデータが存在する場合には、個別に復元を行っていきます。

最後にライセンスキーを再適用することでシステムの復旧が完了します。

BRMS、ICC使用時のシステムリストア

ひとつ前のセクションでは従来から使用されてきたシステムリストアの手順を紹介しましたが、Power VS環境においてBRMSとICCを利用したバックアップ運用をされている場合、この手法は使用できません。

そのため、BRMSとICCを利用したバックアップ環境でのシステムリストアでは以下の2つの手法で代替する必要があります。

  1. Snapshotを利用したシステム全体イメージからの復元
  2. Network File System(NFS)を利用したシステムリストア

Snapshotを利用したシステム全体イメージからの復元

IBM Cloudではインスタンスのイメージコピーが行えるSnapshotの機能が提供されています。

Snapshotはインスタンス全体のコピーを取得する機能です。そのため、特定のライブラリやオブジェクト単位の復元を目的とした小回りのいいバックアップ目的では利用できませんが、システムのリカバリには最適な機能と言えます。

管理用のPC端末ににIBM Cloud CLIを導入すれば簡単にSnapshotの作成・復元を行うことが可能です。

システム変更(PTF適用やライセンスプログラム追加など)の前後にSnapshotを取得しておけば、障害発生時にそのSnapshotから環境を復元することが可能です。

日次のデータに関しては、ICOSに保管してあるバックアップファイルを取得・復元すればシステムを最新の状態に復旧することができます。

Snaptshotの使用にはいくつかの考慮事項があります。

当たり前ですが、Snapshotを保持するにはコストがかかります。コストは使用しているストレージのTierやサイズなどにより変動します。詳細なコストに関してはIBM Cloudのサイトを参照ください。

またSnapshotは10TBを越えるボリュームに対してはサポートされません。
ほとんどの場合、この制限は問題にならないですが、大規模なシステムの場合Snapshotでのシステム保管は実現できない場合があります。

 

Network File Systemを利用したシステムリストア

IBM i にはNetwork File System(以下NFS)と呼ばれる、ネットワーク上でファイルを共有するための格納領域(一般的な言い方であればネットワーク共有フォルダの様な機能)が備わっています。
そして、IBM iの導入では、物理光ディスク、仮想光ディスク、そしてこのNFSを利用した手順がサポートされています。

PowerVSでのシステムリストアは、物理/仮想の光ディスクからでは行えないためNFSを利用して行う必要があります。

NFSを利用したシステムリストアのためには、NFSサーバとしてもう1つIBM iインスタンスを立ち上げる必要があります。

こちらは一時的なインスタンスですので、システム復元が完了したらインスタンス自体を削除します。
(PowerVSはAmazon EC2などと違い、インスタンスを削除しないと課金され続けるので注意してください)

オンプレミス環境だと、一時的とはいえ追加で1システム(区画)を立ち上げるのは時間もかかりますし、もしかしたら追加のリソース・コストが必要かもしれません。
IBM Cloudなら必要な時に必要な量だけを即座に用意できますので、クラウドコンピューティングならではの利点が生きてきます。

NFSからのブート

NFSを利用したブート方法に関しては、IBMのサイトを含めいくつか情報が公開されていますので、ここでは簡単な手順のみを紹介させて頂きます。
以下手順1~8がNFSサーバでの作業。手順9~11はリストア先のサーバでの作業です。

 

  1. 新しいIBM i インスタンスを起動
  2. 仮想光ディスク装置とイメージカタログを作成
    ※イメージカタログを作成する時にはNFSで共有するディレクトリを指定します。
    ※ディレクトリは大文字で作成することを推奨します。
  3. ICOSにあるシステムバックアップファイルを2で指定したディレクトリに転送
    ※ICOSからIBM iに直接ダウンロードするには、ICC資源の定義が必要です。
    ※PCなどの中継器を介した転送でも可能です。
  4. 3で転送してシステムバックアップファイルを2で作成したイメージカタログに追加
    ※追加後VFYIMGCLGコマンドで検査タイプに*LICに指定して妥当性を検査します。
  5. NFSサーバを起動
    STRNFSSVR *ALL
  6. 2のディレクトリをエクスポートディレクトリとして指定
    CHGNFSEXP OPTIONS('-i -o ro') DIR('CATALOG-DIRECTORY')
    HOSTOPT((‘xxx.xxx.xxx.xxx’  *BINARY  819))

    ※xxx.xxx.xxx.xxxはシステム復元を行いたいシステムのIPを入力
  7. TFTPサーバを自動開始にし、代替ソースディレクトリを2で作成したディレクトリを指定
    CHGTFTPA AUTOSTART(*YES) ALTSRCDIR('/CATALOG-DIRECTORY')
  8. TFTPサーバを起動
    STRTCVPSVR *TFTP
  9. SST LANアダプターを構成
    ※SSTもしくはDSTより⑥で指定したIPをLANアダプタとして構成します。
  10. 仮想光ディスク装置を作成
    ※リモートIPアドレスにNFSサーバのIPを入力します。
    ※ネットワーク・イメージ・ディレクトリーにNFSでエクスポートしたディレクトリを指定します。
    CRTDEVOPT DEVD(NFSINSTALL) RSRCNAME(*VRT)                 
    LCLINTNETA(*N) RMTINTNETA(XXX.XXX.XXX.XXX)    
      NETIMGDIR('/CATALOG-DIRECTORY')
  11. 10で作成した装置を指定してネットワークインストールの開始
    STRNETINS DEV(DEVICE) OPTION(*LIC) KEYLCKMOD(*MANUAL)

これ以降は通常のシステムインストールと同様の処理になります。
OSの導入まで完了してしまえば、後はBRMSでシステム保管を行った時に出力可能な回復報告書のステップに従うことで、システムの復元が可能となります。

回復報告書は以下のコマンドで生成できます。
なお、OPTIONパラメータは取得したい回復報告書に適したパラメータを指定してください。
※下記サンプルコマンドの“CTLGRP”はバックアップ制御グループ単位での報告書の作成を意味します。
(複数の制御グループの指定が可能)

STRRCYBRM OPTION(*CTLGRP) ACTION(*REPORT)

日次や週次のデータ復旧の場合には、必要になったタイミングで回復報告書を出力することが可能ですが、システムの復旧時には、必要な時には回復報告書すら出力できない状態になっている場合もあります。
そのため、システムバックアップに関しては、バックアップを実施したタイミングで即座に回復報告書を出力し、出力されたスプールファイルをテキストなどのPCベースのファイル形式で保管しておくことが重要です。

回復報告書を用いることで複雑になりがちなシステム復旧の手順をシステムが用意してくれます。
これによって、手順のミスなどを防ぎ確実な復旧を行うことをサポートしてくれます。

さいごに

今回のコラムはマニュアルの提供ではなく、Power VS環境でのリストアにはどの様な選択肢があるのかのご紹介が目的でした。そのため具体的な手順やコマンドの記載がは部分的なものとなっております。

システムリカバリの大枠はどの企業様でもほとんど共通しているとはいえ、状況や環境によって異なる部分がでてきます。
そのため、IBM社が提供している各種ドキュメントを参考に、自社のリカバリマニュアルを用意し、定期的に検証することが重要です。

Power VSはクラウドです。インフラのメンテナンスはIBM社によって行われるためオンプレミスでのシステム運用時よりも障害発生の頻度は下がるのが一般的です。

それでも【Design for failure】の考え方に照らし合わせると、システムは必ず障害を起こすものだと認識するのが重要です。
これはオンプレでもクラウドでも関係ありません。
そのため、障害発生を考慮したシステム・運用設計することは非常に重要となり、システムリストアはその中核を成すものと言えるかもしれません。

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