2024年1月より完全義務化!電子帳簿保存法とは

2024年1月より完全義務化!電子帳簿保存法とは

運用2022.12.27

電子帳簿保存法とは?

はじめに

2022年1月に電子帳簿保存法(以下、『電帳法』)の改正が施行されました。

電帳法は1998年の施行以降、時代の変化に応じて幾たびも改正を行ってきましたが、基本的にはペーパレス化を志向する事業者に向けた規制緩和の意味合いの強い改正でした。

しかし、テレワークの急速な普及に伴って、紙媒体を必須とする業務の非効率性が意識に上る機会が増えたことなどもあり、今回の改正では今までよりもさらにDX化へ踏み込んだ印象です。
中でも、電子取引で受け取った取引情報(例えば、メールに添付された請求書のPDFファイルや、インターネットで物品を購入した際の情報など)は、2023年12月31日の猶予期間終了後は、紙に出力した状態での保存が認められなくなり、電子データのままでの保存が義務化されます。

データで『保存しても良い』から『保存しなくてはならない』に変化してしまったことで、全ての事業者は電帳法の傍観者ではいられなくなりました。
今まで電帳法をあまり意識したことがなかった方や、義務規定の猶予期限が訪れる前にもう一度おさらいをしたいという方にとって、本コラムが何らかの一助になれば幸いです。

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法(以下『電帳法』)とは、保存が義務付けられている国税関係(法人税法や所得税法)の帳簿や書類を、一定の条件を満たせば電磁的記録(電子データ)で保存することを認める法律です。

従来、これらの帳簿や処理は、原則として紙での保存が義務付けられていました。
紙での保存は、整理に手間がかかりますし、保管スペースにはコストもかかります。
さらに、電子データでやり取りされた文書であっても、わざわざ紙に印刷する必要があるなど、あまり効率的とは言えません。

そこで、情報化社会に対応し、保存にかかるコストや事務的負担を軽減するため、文書を電子データとして保存することを特定として認めたのが電帳法の始まりです。(正式名称:『電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成10年法律d第25号)』)1998年7月に施行)

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法のメリットとデメリット

電帳法に対応した帳簿書類の管理には、以下のようなメリットとデメリットがあります。

<メリット> 帳簿や書類を電子データで保存することによって、『紙』の持つ様々な物理的制約から解放されます。
まずは単純に、書類の郵送や印刷、保管にかかるコストが削減できます。
また、紙のまま長期にわたって保管していると、紛失や破損、あるいは情報漏洩などのリスクが避けられませんが、電子データ化することでそれらのリスクが低減でき、目的のデータを迅速に見つけられる高い検索性を実現しつつも、強固なセキュリティ対策を施すことが可能です。

<デメリット> 電帳法の要件に沿った形で帳簿や書類を保存・管理するためには、多くの場合で自社システムの改修や業務フローの見直しが必要になります。また、場合によっては電帳法に対応した新しいシステムの導入も検討しなくてはなりません。
当然ながらシステムの導入や改修にはコストがかかりますが、業務フローの変化に対応した業務マニュアルの作成や要員の教育、さらにはそれらを法改正に合わせて定期的に見直す必要性もありますので、それらにかかる時間やコストも無視できません。

電帳法の保存対象

電帳法で定められた保存対象は、次の3種類に分類されます。

  1. 『国税関係帳簿』
    国税関係帳簿とは、会社の取引やお金の流れを記録したもののことです。
    仕訳帳、総勘定元帳、経費帳、売掛長、買掛長、仕入元帳、売上元帳、その他帳簿類が該当します。

  2. 『国税関係書類』
    国税関係書類とは、会社の決算や日々の取引に際して使用した書類のことを指します。
    貸借対照表、損益計算書、棚卸表、見積書、契約書、領収書、注文書、納品書、送り状、請求書などが該当します。

  3. 『電子取引の取引情報』
    電子取引の取引情報とは、電子データを用いて行う取引で使用した書類や情報のことを指します。
    取引先と電子データで送受信した取引情報、請求書、注文書、契約書、領収書、見積書などが該当します。
※『国税関係帳簿』と『国税関係書類』は、まとめて『国税関係帳簿書類』と呼ばれ、国税に係る法律で保存が義務付けられている書類です。

電子帳簿保存法の保存対象

電子データの保存方法

電帳法で定められている電子データの保存方法は次の3種類です。

  1. 『電子帳簿等保存』(電帳法 第4条1項・2項)
    電子的に作成した帳簿や書類をデータのまま保存することです。
    具体的には、自分が会計ソフト等で作成した国税関係帳簿や国税関係書類などを電子データのままで保存することを指します。

  2. 『スキャナ保存』(電帳法 第4条3項)
    紙で受領・作成した書類を画像データで保存することです。
    具体的には、相手から受け取った紙の請求書や受領書などの国税関係書類を、スキャナで電子化して保存することを指します。

  3. 『電子取引データ保存』(電帳法 第7条)
    電子的に授受した取引情報を電子データのまま保存することです。
    具体的には、電子メールでやり取りした請求書や、クラウドサービスで発行した契約書、Webサイトからダウンロードした受領書など、紙ではなく電子データで取引情報をやり取りした際の電子データを保存することを指します。
なお、上記1と2は『容認規程』ですので、取り組みは任意です。今後も従来通り紙に出力して保存しても構いません。
ただし、上記3は『義務規定』ですので、猶予期間(2023年12月31日)以降はすべての事業者で取り組みが必須となります。

つまり、『国税関係帳簿』や紙でやり取りした『国税関係書類』は、これまでと同じく紙のまま保管することが許されます。
しかし、今までその電子データを紙に印刷して保存することが認められていた、『インターネットや電子メールを介して受け取った国税関係書類』は受け取った電子データ等はそのまま保存することしか認められなくなります。

電子データの保存方法

電子取引データの保存要件

電帳法には、電子データの保存方法別に個別の保存要件が定められています。
ここでは取り組みが必須となる『電子取引データ』の保存要件について確認していきます。
(容認規程である『電子帳簿等保存』と『スキャナ保存』は本コラムでは割愛します)

電子取引データを保存する場合に、改ざんされていないことを示す『真実性の確保』と、誰もが視認・確認できる状態を示す『可視性の確保』として以下の保存要件が定められています。

  1. 『システム概要に関する書類の備え付け』
    電子計算機処理システムの概要書(データ作成ソフトのマニュアルや手順書など)を備え付けること。

  2. 『見読可能装置の備え付け』
    保存場所に、電子計算機(PC等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、画面・書面に整然とした形式および明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと。

  3. 『検索機能の確保』
    下記の検索機能を確保すること。
    1. 取引年月日、取引金額、取引先で検索できること
    2. 日付または金額の範囲指定で検索できること
    3. 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件で検索できること
    ただし、ダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、上記b.cは不要です。
    また、保存義務者が小規模な事業者でダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索機能は求められません。

  4. 『データの真実性を担保する措置』
    以下のいずれかの措置を行うこと。
    1. タイムスタンプが付与された後に取引情報の授受を行う
    2. 取引情報の授受後、速やか(またはその業務の処理に係る通常の期間を経過した後)にタイムスタンプを付け、保存を行う者または監督者に関する情報を確認できるようにしておく
    3. データの訂正や削除を行った場合にその記録が残るシステム、または訂正や削除ができないシステムで取引情報の授受及び保存を行う。
    4. 正当な理由がない訂正や削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規定に沿った運用を行う。
上記1と2の2つに関しては、事業者自身が電子取引データを管理・確認するために必須となりますので、対応に苦慮することは少ないと思われます。実際の対応で問題となりやすいのは上記3と4です。

上記3の『検索機能の確保』では、取引年月日、取引金額、取引先で適切に検索できる状態にすることが求められます。
その際には、それらの検索機能を実現する専用ソフトを導入する方法や、保存するファイル名にそれらの情報を含めておいてOSの検索機能を使用する方法、あるいはExcel等で検索簿を作成してファイルを検索できるようにする方法等が考えられます。

上記4の『データの真実性を担保する措置』については、aは取引先に、bは自社にタイムスタンプが付与できるシステムを導入する必要があります。また、cについても、システム導入が必要なうえ、データの保存だけではなく、やり取りもシステム内で行う必要があり、いずれも実施には高いハードルがあります。
国税庁が公表しているサンプルを元に、自社で電子データの取り扱いについての規定を定めて運用するdが、中小規模の事業者なのでは一番現実的な選択になるかもしれません。

電子取引データの保存要件

まとめ

2022年の法改正で、電帳法は全ての事業者にとって無視できない法律に変化しました。

しかし、義務規定の部分を除けば従来と異なる作業を強要するものではなく、その義務規定の部分に関しても最低限のハードルは言うほど高くはありません。
例えば、本当に最低限というのであれば、電子取引の取引データを適切なPCのフォルダ上に保管して手順書を残し、Excel等で索引簿を作成した上で、訂正や削除に関する事務処理規程を定めるだけで、あとは今まで通り帳簿や書類を紙で保存しておけば問題ないかもしれません。
さらに言えば、現時点ではまだ不確定なものの、小規模事業者の条件緩和や要件緩和が噂されていて、2023年度には更にハードルが下がる可能性もあります。

とはいえ、紙の帳簿や書類は従来通りに紙で保管しておいて、電子取引データだけをデータのまま保管するというのが、どれほどの手間やコストに削減に繋がるのかは不明です。反対に管理の手間やコストが増大してもおかしくありません。
本来、帳簿や書類を、紙と電子データの2種類の媒体で保管するのは非効率です。
電帳法への対応自体にメリットが無ければ、単純に電子取引そのものを忌避する方向に圧力が高まる可能性もあります。

逆に、可能であれば電子データで一元管理する方が効率的です。
検索性の向上やセキュリティの強化、紛失・破損のリスクの低減も見込めますし、最終的には手間やコストの低減が予想されます。
それに加えて、日々膨大に生じる取引関係書類の全てを電子データやスキャンデータで取り扱うためには、承認や確認、保管などの効率は非常に重要ですので、業務フロー自体の効率化が見直される機会が訪れるかもしれません。

DX化の波は、いずれ取引の主戦場を電子領域に遷移させます。

そこまで考えると、今回の法改正は、単なる『ペーパーレス化』ではなく『業務のあり方の進化』を段階的に推し進めるチャンスになるのかもしれません。