スペックにより分類
コンピュータの分類を考える際に、一番最初に目につくのは処理能力やサイズ、あるいはその価格といったスペックによる分類だと思います。処理能力が高く、サイズも大きく、高価なコンピュータは分かりやすく上位的存在ですし、その逆は下位的存在であることが自明です。
ですが、技術は常に進化しているため、時間の経過と共にコンピュータの処理能力は大きくなる一方で、処理能力当たりの物理的なサイズや価格は小さくなります。乱暴に言うならばコンピュータは『より速く、より小さく、より安く』なります。
ここに、スペックが高ければ『メインフレーム』で、低ければ『オフコン(ミニコン)』と簡単に言い切ることが難しくなる要素があります。
例えば処理能力に着目するなら、コンピュータの有名な性能指標のひとつに『FLOPS』(フロップス、Floating-point Operations Per Second)というものがあります。これは1秒間に浮動小数点演算が何回できるかを表す単位です。
1997年5月11日にチェスの世界チャンピオンとの対局で総合勝利したIBM製のチェス専用スーパーコンピュータ『Deep Blue』の処理速度は11.38 GFLOPSと言われています。つまり、DeepBlueは1秒間に110億回以上の浮動小数点演算が可能な処理能力を持っていたことになります。開発開始から8年が経過してスパコンとしては既に最速とは言えない処理速度でしたが、その翌年にDeep Blueの5倍程度の処理速度を持つコンピュータをIBMが100万ドル(当時の為替レートで約1.2億円)で一般販売していることから、十分に高コストなコンピュータであったことは間違いありません。
翻って、2022年現在の一般的なパソコンの処理能力を見てみると、例えば多くのパソコンで採用されているIntel社製のCPUである第12世代 Core i7 チップ『12700K』は691.2 GFLOPSの処理能力を持つとされており、単純計算でDeepBlueの60倍以上です。
DeepBlueにとってさらに過酷な現実を突きつけるとするならば、今から10年以上前の2011年に販売されたApple社のiPhone 4Sに搭載されているApple A5チップの処理能力が14.4 GFLOPSと言われていますので、DeepBlueはその歴史的な偉業の14年後にはスマートフォンにも浮動小数点演算性能を追い抜かれた形になります。
当然ながら価格やサイズも同様です。
冷蔵庫よりも大きくて何億円以上もするようなスーパーコンピュータが、20年後にはポケットとポケットマネーで収まるスマートフォンに処理速度で負けてしまうのですからどうしようもありません。
明確な性能情報はありませんが、IBMメインフレームの祖といえる名機『IBM 701』(1952年)がどれほど高性能な真空管を搭載していたとしても、IBMオフコンの祖である『IBM System /3』(1969年)に対して性能的な優位があるとは思えません。
また、いくらミニコン(オフコン)とはいえ、その最大構成時はそれなりの空間を占拠します。場合によっては最小構成のメインフレームよりも大きくなることもあるかも知れません。
このように、ハードウェアのスペックだけでコンピュータの分類を行おうとすると、時代の移り変わりによって凄まじい下剋上が起こってしまいますので、あくまでも世に出た瞬間の相対的なスペックによって語られるものであることに注意が必要です。