IBMのメインフレーム④ IBM System/360について
1964年4月7日。東京オリンピックの開幕まで残り半年に迫った頃。
IBMはマイクロプログラム方式を採用した『IBM System/360』を発表しました。
商用から科学技術計算まで全方位(360度)の用途に対応できるという意味を込めて『IBM System/360』と名付けられたこの機体は、世界初の汎用機と言われています。
当時のコンピュータは、シリーズが同じであってもモデルごとにプログラムが異なっているのが普通だったため、コンピュータを移行する際には、ハードウェアだけではなくプログラムも修正する必要がありました。
マイクロプログラム方式とは、簡単に言えば仮想化に近いもので、ハードウェアの違いをマイクロプログラムで吸収することで、同じシリーズであれば仮に上位モデルに移行しても既存のプログラムの利用を可能にします。
IBM System/360は小型から大型まで、商用から科学技術計算まで、あらゆる用途をカバーする6つのモデルでファミリを形成しました。そのローエンドモデルとハイエンドモデルでは、科学技術計算性能で180倍以上、メモリ帯域では実に230倍以上の性能差があったとのことで、事業の成長や目的の変更に合わせて移行する際のモデルの選択肢が豊富な上に、それまでのプログラム資産が無駄にならずに済むことから、多くの企業で支持されたそうです。
商用では初のオペレーティングシステムや仮想機械が登場したIBM System/360の設計は『史上最も成功したコンピュータ設計の1つ』と謳われるだけあって、競合他社を市場で圧倒したことも納得できます。
それまで5系統(701シリーズ、702シリーズ、650シリーズ、1401シリーズ、その他)あったIBMのコンピュータを統合する形となったIBM System/360の開発プロジェクトですが、IBMの投資金額は50億ドルとも言われています。1964年のIBMの売り上げが32億ドルとのことですので、かなり思い切った開発投資だったと言えます。
ちなみに、当時は1ドル=360円ですので日本円に直すと1.8兆円になります。現在の1.8兆円ですら十分に巨額ですが、1964年の日本の公務員の大卒初任給が17,100円であることを考えると現在の価値観では約20兆円にもなります。勿論、当時は固定為替相場ですし、実際の経済感覚ではもっと低くなると思いますが、それでもとんでもない巨額であることだけは間違いありません。
その巨額投資は、出荷台数3万3000台というIBM System/360の大成功に繋がりました。
その後、System/360シリーズのアーキテクチャやアプリケーション・プログラムの互換性は、後続のSystem/370、System/390だけでなく、IBM Zまで引き継がれて今日に至ります。