2014/3/31
裁量労働制の導入とインセンティブの導入。前回はこのテーマに対して、人事部長にはネガティブな方が多いと記述した。ネガティブというのは言い過ぎであったと少々反省しているので、ここで訂正したい。適切な表現は”慎重”であったと。では、経営者の反応はいかがなものだろうか。
この数ヶ月で20人以上の経営者と個別にお話しさせていただいたが、皆ポジティブである。前回でも述べた通り、労働基準法の制約?の中で収益を確保するのに苦慮している方々である。無駄な残業手当など1円たりとも払いたくないのが本音だろう。その反面、会社の業績に大きく貢献してくれた社員には最大限に報 いたいと考えているのも経営者である。仕事の進め方や時間管理を社員に委ねることで、ある程度残業手当を抑制し、その分をインセンティブの原資として、成 果を上げた社員に還元することができるのならば、経営者にとっては大歓迎なのだ。
「日本社はみな横並びで、すぐには動かないところが多いだろうけど、あんた何年か経ったら引っ張りだこになってるかもね」というお言葉もいただいた。中には「成果主義は過去みんな失敗したんじゃないの?何が違うの?」というご質問をいただくこともある。「違うんです。明確に。」これはしっかり押さえておくべき重要なポイントだ。1990年代の後半から2000年代の中頃までに一世を風靡して絶滅した成果主義には、失敗の理由となる共通点がある。単年度の業 績評価を全ての人事評価に当てはめてしまったということだ。成果主義には漏れなくMBO(目標管理制度)が導入されるが、失敗したケースの一番の問題は処遇の方法である。ほとんどのケースが次の2つに当てはまる。
(1)賞与で差を付ける
(2)次年度の昇進・昇格、昇給
(1)は会社全体が目標に達しないと還元されないので、社員の動機付けとしては少々物足りないが、間違いではない。問題は(2)である。人事評価を行う上 で業績は重要なファクターではあるが、それだけではない。会社の中核となる管理職を与えるには、リーダーシップ、スキル、会社に対する貢献度、マネジメント適正など、あらゆる面で評価を行うべきである。これらを無視して、単年度あるいは数年の成果がずば抜けていたからといって安易に管理職のポストを与えて しまうと、不適格なリーダーが乱立してしまうことになる。次年度の昇給で処遇するというのも、後々ボディーブローのようにダメージが効いてくる。会社の業績がずっと右肩上がりの時はよいが、業績が傾いた時に最も下げづらいのが基本給である。
ここで押さえておくべき最大のポイントは、単年度の成果は成果給として年度内にきっちりと清算し、昇進・昇格を伴う人事評価とはきっちり分けて実施すべきということ。成果給は目標達成度に応じた絶対評価で、人事評価はあらゆる角度から相対評価で行うべきである。
他にも、定量化できない達成基準の曖昧な目標設定、個人の成果を重視するあまりチームワークや一体感の欠如、後進の育成に興味を無くした中堅社員など、失敗した要因は多くあるが、詳しくは後に導入のポイントで述べるとする。
インセンティブ=成果給のコンセプトについては、これで社員の理解は得られるが、裁量労働制の導入については、まだまだ解決すべき問題が残っている。未払い残業代や代休残の消化などは至ってシンプル。”借りたものは返す”人間社会で当たり前のルールに従えばよい。但し、返す方法や期間については社労士の先 生と相談するのがいいだろう。前回記述した中でまだ残っている問題は、社員の不信感の払拭と監督署の認可である。これらも一見異なる問題のように見える が、本質は同じ。労働者を保護するのが監督署の役割。要は社員が納得できることは、監督署も納得するということだ。かつて監督署に申請したが、認可を得ら れなかったというケースも何件か聞いている。「品川は厳しい」、「三田だから通ったんだ」などなど。噂が噂を呼び、「あそこは絶対に通らない」などと言わ れている所轄もある。よくよく聞いてみると、もう6~7年も前の話であったりする。社労士の先生に聞くとほとんどの監督署が代替わりしているらしい。それ に厚生労働省は裁量労働制の拡大に取り組む方針も出している。監督署のニュアンスも変わっているだろうが、もっとシンプルに考えればよい。認可が下りない のはどういうケースなのか? それは裁量労働制を理由に、賃金カットや長時間労働を強いると誤解を受けるケースである。これは社員から見ても同じ。「残業 代を召し上げようとしてるんじゃないの?」と。確かに裁量労働制だけでは残業手当は減るだろう。監督署に対しても、社員に対しても、必要なのは減った分を どうするのかの理解をえることだ。それは、今までは多く働いた時間に対して時間外手当が支払われていたが、その一部を”より多くの成果を上げた社員へ配分 する”ということで説明がつく。これは、ワークライフバランスを推進し、日本の労働生産性の低さを問題視する厚生労働省に対しても、理に適った考え方であ る。