2014/5/12
当コラムのテーマは「IT業界人気回復への道」となっている。私ごときが僭越だとは認識しつつ、如何にして社員のモチベーションを向上させるかの本題に入っていきたい。
前回で、裁量労働制と同時に導入や賞与の調整などでインセンティブの原資を確保する方法を会社側の視点で記述した。会社側の視点だけでインセンティブを導 入しても、社員の満足が得られるかはまた別の話である。社員のモチベーションを向上させるには、どれだけ成果を上げれば、どれだけの報酬が得られるかを明 確に公表することが大前提となる。もちろん、公表されたものが魅力的な内容でなければ社員のモチベーションは逆に下がってしまうだろう。魅力的というの は、目標値に対する達成度に応じた支給額を公表する「支給テーブル」に記載されるインセンティブの支給額に他ならないが、そこは予算との兼ね合いで十分に 検討する必要がある。支給額導入前の給与体系がどのようなものであったかも考慮する必要があるが、おおむね次のように考えるのがいいだろう。
まずは、今までの既得権であったもの(時間外手当や一律に支給されていた賞与)が減った額は、最低ライン(インセンティブが支給される目標達成度の下限 値)に達したときには補償すべきであると考える。それが補償されなければ、賃金カットと誤解されかねないからだ。また、天井(インセンテイブが支給される目標達成度の上限値)に達したときは、今までの賞与を大幅に上回るものでなければ魅力的ではないだろう。そこでケチなものを公表してもモチベーションは低 下するだけだ。どうせやるなら社員が驚くくらいの方がいい。昔から、会社は上の2割の社員が引っ張っていると言われている。その説が正しいとするならば、上限値に達するのは全体の2割。全社の利益が目標に達した場合、全体の2割にどれだけ支払えるかの予測を立てれば、上限額の目安は見えてくる。
さらにその 上を設定するか、青天井にするかは経営者の考え方次第である。担当する業種や顧客、あるいは製品・サービスの分野によって業績に大きな影響がある場合は、 不公平感が生じるため、上限値を設定した方がいいだろう。社員の間で最も不公平感が生じる要素が目標設定である。これは最も慎重に検討すべきポイントだ。 かつて私が外資系企業でインセンティブの企画に携わった際に当時の上司が常々言っていた。「誰がどこから見ても公平・公正なものを作らなければならない」 と。本社の奥の方で考えているだけでは、そんなものはできはしない。何よりも現場に出向いて意見を聞くことが重要だ。現場の人、特に営業さんは声が大きい ので、意見を全て聞くと成り立たなくなってしまう。そこは冷静に客観的な判断も必要だ。現場の意見を取り入れられなかった場合には、発表前に個別に説明に 行くなんてこともマメにやっていた。対象者は2,000人を超えていたので、そんなことをやっていると時間が経つのはあっという間である。私のスタッフ時 代の2年間は、8時出社の終電帰宅。本当に大変だったが、今ではかけがえのない経験となっている。要は、社員の給与に関わる事なので、内容もさることなが ら、進め方や現場との合意形成が非常に重要ということなのだ。
さて、本題の目標設定の考え方であるが、当然のことながら職種によって変えなければならない。営業職は全業種共通、会社の売上および利益目標を縦割りでブ レークダウンしていけばよい。当然のことながら、下に落とす毎に数パーセントの上積みをしないと、全ての部門、全社員が100%達成しないと会社の目標は 達成できない。階層が多い外資系企業は、最下層の目標値の総計が全社目標の2倍を超えるなんてこともあるが、あまりやりすぎると達成不可能な目標になって しまう。1階層毎にせいぜい5~9%の上積みが妥当であると考える。
次に目標設定の単位であるが、営業職の場合は個人目標よりもグループ目標を最小単位とすることをお薦めする。営業職は個人の実力もさることながら、担当す る市場や製品・サービス分野によって業績に影響を受ける度合いが大きいと考える。特に固定客を担当している場合は、業績が良かった年の翌年はその反動を受 けて悪い場合が多い。私も外資系時代は年収が数百万単位で変動したものだ。このような浮き沈みや担当分野の不平等も、グループ目標にすることでかなり吸収 される。管理職も個人目標の設定にかかるストレスからも解放されるという訳だ。
次回は、技術職に対する目標設定の考え方について述べていきたい。